2017.11.15

私たちは、毎日、気づかぬ内に、ヘンテコとも言える経済的な行動や思考をしています。
例えば、送料が無料になるからと言って、帳尻合わせに、余分な商品とかの購入をついつい検討していたりしてませんか。
例えば、スーパーで野菜やお肉を買う時には、いつも1円単位の値引きに敏感に反応している方でも、海外旅行のツアーや車を選ぶ際に、その10倍もの値引き(30円,40円引きとか)を示されたとしても、飛びつくことはしないし、むしろ、妙な気持ちになりますよね。
例えば、親戚のおじさんから、今日、1万円あげようか、それとも来年の今日だったら1万1千円にするけどどうか、と問われたら、どうでしょうか。ほとんどの人は、今日の1万円を貰っておくと思います。でも、合理的に考えれば、1年後に1万1千円って、今どき、極端に高い利率です。
このように、「経済的合理性」という観点から立つと、私たちの行動の多くは、「理に合わない振る舞い」と言わざるを得ません。
しかし、それが我々なのです。

ヘンテコノミクス

この11月、私は、一冊の行動経済学をテーマにした漫画を出します。
私たちが取っている非合理とも言える経済行動をモチーフに、新しい漫画表現を作り出したかったのです。
二人の同志とともに作り上げたその本の冒頭に、私は次の文章を掲げました。

人は、なぜそれを買うのか。
安いから、質がいいから。
そんなまっとうな理由だけで、人は行動しない。
そこには、より人間的で、深い原理が横たわっている。
この本には、その原理が描かれている。
漫画という娯楽の形を借りながら。

同志の一人、菅俊一は、表現研究者で多摩美で教えている身ですが、慶應義塾大学の佐藤雅彦研究生の卒業生で、数年前に一緒に「差分」という書籍を作りました。世の中の見方も表現への関わり方もとてもユニークで興味深い研究を続けています。
もう一人の同志の高橋秀明(しゅうめい)さんとは、もう25年以上も一緒に、ある表現を作ってきました。私は、この本で、世の中に素晴らしい才能をふたつ提示できたわけです。二人とのドラマティックないきさつは、この本のあとがきに記しました。
(ただし、このあとがきは、漫画を読んでから読まないといけない構造になっているので、漫画を楽しんでから、読んでみてください。)

書籍「ヘンテコノミクス」は、昨年の4月から一年間、雑誌BRUTUSに連載していた23本の漫画が主体となっていますが、今回、書籍化に際して、新しい漫画もたくさん作りました。新しい読み物もたくさん書きました。どれも、凄い面白さを持っていると思います。 是非、ご期待ください。

2017年11月
東京藝術大学 大学院映像研究科
佐藤 雅彦


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ヘンテコノミクス/目次 (抜粋)

第1話「塀のらくがき」の巻
――アンダーマイニング効果
報酬が動機を阻害する

第2話「安売り合戦」の巻
――感応度逓減性
母数によって変わる価値

第3話「スーパーおしの」の巻
――フレーミング効果
枠組みを変えると価値が変わる
  
第4話[保母さんの名案]の巻
――社会を成立させているのは、モラルかお金か
罰金による罪の意識の軽減

第5話「心の会計」の巻
――メンタル・アカウンティング
心の中で、お金の価値を計算する

第6話「はじめての背徳」の巻
――アンカリング効果
基準が判断に影響を及ぼす

第7話「       」の巻 ※
――代表性ヒューリスティック
私たちはイメージに囚われる
※「 」の中は、ある理由から空白になっています。

第8話「欲しいけど買えない」の巻
――おとり効果
選択肢を生み出すことで、市民権を得る


………

第21話「無料の誘惑作戦」の巻
――無料による選好の逆転
「タダ」が判断を狂わせる

第22話「秘伝のタレ入り特製ラーメン」の巻
――プラセボ効果
信じ込むことで、感覚さえも変えてしまう

第23話「脳裏に浮かぶ一本道」の巻
――双曲割引
自分との距離が遠ければ、差を感じない


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行動経済学まんが 「ヘンテコノミクス」

原作:佐藤雅彦 + 菅俊一
画 :高橋秀明
出版社:マガジンハウス
発行日:2017年11月16日
定価:1500円(税別)

amazon
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紀伊国屋書店

2017.09.20

みなさんは、生きていて、何が一番うれしいですか。
この質問に対しての私の答えは、……ちょっと変わっているかもしれません。
私は、自分が生きてて、一番うれしいこと、つまり、一番のやりがいのあることは、
「ひとに何かを分かってもらうための新しい手法を考え出す」ことなのです。

こどもたちに、この世の中には、こんな面白い考え方ややり方がある、ということを分かってもらうために、ピタゴラスイッチを作ってきました。アルゴリズムっていう面白い考え方を分かってもらいたくて、「アルゴリズムたいそう」や「アルゴリズムこうしん」を考え出しました。一対一対応という考え方を理屈ではなく分かってもらうために、「おとうさんスイッチ」を生み出しました。他にも、経済の本質というものを分かってもらいたくて、「経済ってそういうことだったのか会議」を企画し、竹中平蔵さんと作りました。25年ぐらい前には、サントリーのモルツやTOYOTAのカローラⅡや、NECや湖池屋などのTV-CMを作っていましたが、それらも、商品名や商品特徴やキャンペーン名を分かってもらう新しい手法には、どのようなものがあるのかを研究開発したくて行っていたのでした。

新しい分かり方

私は、ひとが何かを分かるとき、小さな『生きててよかった』が生まれると思っています。例えば、サンドウィッチを食べながらコーヒーを飲んだら、苦手だったコーヒーのおいしさが分かった時、積分の基本的な考え方が教科書に載っていた部分求積法で分かった時、HMVというレコード屋さんの名前が “His Master’s Voice” から来ていて、あの犬のイラストの物語が分かった時、などなど……。
そして、分かった瞬間には、満足感と爽快感が混じり合った、なんとも言えない気持ちよさが得られます。
つまり、自分が生きがいとしてずっとやってきた、分かってもらうための新しい手法の探求は、生きててよかったを生むための手法の探求でもあったのです。

この秋、刊行する『新しい分かり方』という書籍には、幾十もの「分かってうれしい」「分かって腑に落ちる」が入っています。同時に幾十もの「分からないけど、なんかうれしい」「分かるけど、なぜ分かるんだ」も入っています。他にも、「分からないけど、この分からなさはなんか初めてだ(これを「新しい分からない方」と呼ぶ)」もあります。

どうか、手に取って、『新しい分かり方』の数々を心ゆくまで確かめてください。そして、あなたの内に、新しい表象が立ち上がるのを確かめた後には、随筆も読んでみてください。「新しい分かり方」を体験したあなたに読んでほしい随筆を6編書き下ろしています。一冊の本の中に、作品の体験とその体験を共有した読者のあなたに向けての随筆があるという

今までにないメディア・デザイン

です。この本にしか存在しない空間を是非、享受していただきたいと思います。

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書籍『新しい分かり方』には、興味深い分かり方をする表現が満ちあふれていますが、その中でも、私がこれは絶対体験してほしいと推薦したい作品と随筆を挙げます。

塩とたまご
金槌と釘の一連
指の下
5円玉とカメラ
いたずら顔の理由
水の影
L I G H T
何の絵本
しおり
紙の裏からこんにちは
ジョン、メディアからの脱出を試みる
父、グスタフ王の命令
ある蜘蛛を讃える詩
秋の象嵌
新しい生物
円弧の中心
へんな箱
世界のはじまり

(随筆)
モダリティの話
系が違う
象嵌(ぞうがん) 医学部2号館

ちょっと多かったですかね、推薦の数としては。
 でも、そんな気にもなるような作品群が並んでいます。その中でも、私が一番好きなのは、……これは秘密にしておきます。では、「新しい分かり方」、是非お楽しみに。

2017年 秋  佐藤雅彦

『新しい分かり方』
著者:佐藤雅彦
発行所:中央公論新社
価格:1,900円+税

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honto.jp
中央公論新社

2017.06.21

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、初めてのクラウドファンディングをやっています。

私が勤めています東京藝術大学で、新たなアーティスト支援を拓く取り組みとして、
東京藝大×クラウドファンディング という活動が、この4月から始まり、
学内でその募集がありまして、応募したところ、採択されました。

芸大クラウドファウンディング

プロジェクト名は、

 佐藤雅彦研究室/表現手法の探求 短編映画群 “ filmlet C ” 製作

と言います。その名が示すように、実験的な短編映画を作りたいと思っているのです。
今まで東京藝大の佐藤研の修了生達と、カンヌ国際映画祭に招待上映された「八芳園」や、今、映画祭のコンペに出展中の「父帰る」など短編映画を作ってきました。しかし、資金的に壁があり、これ以上の製作は難しいという状況のところに、この藝大内の取り組みが発表されたのでした。

現在のクラウドファンディングの状況ですが、最初の目標は達成し、NEXTGOALが設けられているところです。

もし興味があれば、下記から、私たちの活動を見ていただきたく思います。
支援していただくと、例えば、完成試写会に招待されたり、エンドロールにお名前が載ったり、あるいは私の特別講義を聴講できるようになっています(もちろん聴かなくたって大丈夫です、義務ではありません)。

https://readyfor.jp/projects/c-project

期間:2017年6月30日(金)午後11時まで

東京芸術大学大学院映像研究科 佐藤 雅彦
filmletc

2017.01.26

東京芸術大学映像研究科と横浜市文化観光局の合同企画である
「こどものためのシアター」、その中で高校生対象に講演をします。
演題は「目で見る数学 目で見る物理  ー映像だから分かること」です。

数式や文章だけでは、とっつきにくい数学や物理でも、映像をうまく使うことで、途端に分かりやすくなったり、関心が生まれたりしてきます。
では、どのように映像を作り、その映像をどのように使えば、難しい概念も理解できるようになるのでしょうか。それを話したいと思います。

東京芸術大学大学院映像研究科 佐藤 雅彦

日時:2017年2月4日(土)14:00〜16:00
場所:東京芸術大学横浜キャンパス 馬車道校舎
最寄り駅:みなとみらい線 馬車道駅(徒歩1分)
定員:90名
対象:高校生
もちろん無料です!
申し込みなどの案内ページ:http://www.fm.geidai.ac.jp/news/2902

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