福音館から毎月出ている「かがくのとも」の9月号に
ユーフラテスと一緒に作った新作を発表します。
「なにかがいる」というタイトルです。
私たちは、古代の人たちよりも格段に安全な環境で生活をしています。
普段、道を歩くときも、平らだということを前提にしていて一歩一歩注意深く
進むということはしていません。レストランで食事するときも、毒が含まれているかといったことは夢にも考えません。
太古の昔は、歩くことも食べることも生死に関わり、人間はそれに対しても全能力を発揮させていたに違いありません。そもそも人間には、想定されていない事象を感知する能力があり、その能力を使うことによって、多くの危険から身を守ってこれたのです。
例えば、藪に潜む猛獣の存在を、何か危ない気配がするぞと、いち早く感知して難から逃れたり、食物になる生物がうまく隠れていても、何かがいそうだと、それを察知して獲得するといったことをしてきたわけです。
しかし、社会制度や科学技術の発展から、我々は、鈍くても(今どきの言葉だとゆるく)生きられる環境を手に入れることができました。実は、この時、私たちは、その安全と引き換えに大事なものを失いかけています。
自分たちの能力をフルに使わなくても生きられるということは、生き生きと生きていないことにつながるのです。生きている感じのない生活、手応えのない無為な毎日、そういう現代人が味わっている空虚さの多くは、そこを原因としています。
この本は、こどもたちに「なんかやばそうだぞ」とか「なんかふつうじゃないぞ」といった気配を感じ取ること自体が人間にとって一種の悦びだということを知ってほしくて作りました。
こどもだけでなく、大人の方にも、とても面白いコミュニケーションデザインになっていると思います。是非、お手にとってご覧になってください。
かつて、養老孟司さんと対談した時に、「一日一回は人工物ではなく自然物を見なくてはいけない」と仰っていましたが、それはこの本の主旨と根底でつながっていることなので、この本の解説を今回お願いしたところ、名文を寄せていただけました。それはこの本に添付されている小冊子の方に載っていますので、それも楽しみにしていただけたらと思います。
佐藤 雅彦
かがくのとも 2009年9月号 福音館書店
「なにかがいる 」
佐藤雅彦 +ユーフラテス 作
定価410円(本体価格390円)
「かがくのとも」は、購読している幼稚園や小学校、家庭に届くしくみですが、発売からしばらくは、書店でも買うことができます。
福音館書店の「なにかがいる」紹介ページ